DE ROSA JAPANのスタッフによる、自宅から職場までの自転車通勤、その途上で見つけた「昭和的」なモノやコトの小さなお話。第2回目は、上野の不忍池。
不忍池。読み方は「しのばずのいけ」である。不忍池の東側には上野公園(上野恩賜公園)を挟んで上野駅がある。上野駅はかつて北の玄関口と言われ、東北や北陸から上京してきたひとたちが最初に東京に降り立った、そんな駅であり、昭和30年代には集団就職で上京した当時の若者たちが、夢と希望と不安が入り混じった感情で初めての東京に触れた駅でもある。映画「ALWAYS三丁目の夕日」で堀北真希が演じたロクちゃんが、まさに集団就職でやってきた役柄であり、彼女も上野駅で降りたはずだ。
なぜこんなことを書くかといえば、不忍池と言われても東京以外にお住いの皆さんにはピンとこないかもしれないと思ったからだ。地理的には上野駅、上野公園(桜の名所である)、上野動物園(パンダで有名)はセットであり、東京の東部で限られたエリアではあるが水辺や緑が多く、一帯は割と自然っぽい感じがあるといえばある。
で、不忍池である。自分の自転車通勤ルートにある池だが、自宅からは1㎞もなく、かつて犬と暮らしていた時はお決まりの散歩コースでもあった。その時の記憶なのでけっこう曖昧なのだが、不忍池は自転車のレースが日本で初めて開催された場所である、と記された石碑をみたような気がするのだ。マラソンの駅伝発祥の地でもあり、その碑は立派なものが存在するのだが、今回の記事を書くにあたって休日に838で不忍池を周回してみたが、日本初の自転車レースを記した石碑は見つからなかった。そこでネットで調べてみると、出てきたのが自転車競技云々以前に、実は池の周りが競馬場であった事実。これには驚いた。実に140年前のことらしい。そして自転車レースよりも前に、池を周回する形で作られた競馬場で1884年に天皇臨席のもと、今でいう競馬が行われたとwikiに書いてあった。
その不忍池の自転車レースだが、競馬が行なわれてから14年後に開催されたらしい。14年の差で競馬が先だったのは残念と思った個人の感想はともかく、1898年に当時の大日本双輪倶楽部(素敵な名前)が主催した、日本人による初めての自転車競走会が不忍池を周回するコースで開かれたという。
現在の不忍池に、競馬場はおろか、自転車レースの名残などもちろん皆無である。昼間は観光客で賑わい、夜はデートスポット的な場所でもある。ベンチ多いし。しかし、池を周回する遊歩道を自転車でゆっくり走ると、懸命にペダルを漕いだ大日本双輪倶楽部の選手も、当時の人々には珍しかったであろう競技自転車の競争を目の当たりにした観客も、たいそう興奮したのだろう。そんな思いに駆られる。事実を知ることは、考え方や感情に奥行きを与えてくれる。…こともある。
帰宅時に不忍池にみちくさ。ここが池の周りの遊歩道で、126年前、大日本双輪倶楽部のひとたちが駆け抜けたであろう場所だ。もちろん昼間に。そしておそらく、今と比べるまでもない荒れた路面で。
本文とは全く関係ないが、自分は長くDE ROSAの日本語版カタログ制作に携わり、数えきれないほどのロケ撮影を行ってきた。その時は、多くの場面でこの写真のように自転車を自立させて、最高のフォトグラファーに撮影をしていただいた。この写真は簡単な画像処理はしているが、実は直径5mmほどのアクリルの棒で自転車を支えて自立させてある。実生活では何の役にも立たないが、カタログ撮影で培った技術である。ご想像の通り、ひとたび風が吹けば一発で転倒事故となるほど不安定だ。この日も折からの低気圧で無風ではなかったが、我ながら慣れたものでぴたっと一発で決まった。ライティングはオール街灯。個人所有のiPhone13によるナイスな仕事。それにしても838、カッコいいな。
自分もサイコンを利用するが、ケイデンスとかワットとか、あまり関係がないタイプなのでシンプルなものが好みだ。これはiGPSPORTの130Sというモデルで、自分が必要とする機能が搭載されていて気に入っている。税込で5000円ちょっと。安いし使い勝手が良い。煩わしい設定はほとんどなく、電源を入れればGPSの電波を拾って準備は完了。有線でセンサーをつける必要もなく、走り出せばスピードが表示され距離が刻まれる。なんとなく昔のカーナビのコピー「道は星に聞け」を思い出す。四半世紀前のカンパのエルゴブレインをいまだに使っている自分にとっては文明開化みたいなものだった。なによりも時間帯で勝手にバックライトが点灯してくれるのがいい。ただし、ひとつだけ難点がある。自分が走行中に気にするのは現在時刻が多いのだが、困ったことに時間の文字が小さすぎる。自分はMr.Loganなので、なんとかならんものかと思うが、こればっかりは仕方がないか。
せっかくなのでハスをバックに838。不忍池はハスも有名で、夏場は池の一部がこのようにハスで埋め尽くされる。ハスは花が咲くときにぽんっと音がするらしいが、自分は聞いたことがない。ハスもすごいがこのアングルは抜けが良くて、東京とは思えないくらい。しかし画角を少しでも左右に振ると、高層ビルやマンションが写り込む。東京のど真ん中、ちょっとだけ奇跡のショットかも。自転車通勤に限らず、自転車の速度で目に飛び込んでくる風景は、クルマとも徒歩とも違って面白いですね。